別冊映画秘宝「切株映画の逆襲」に執筆した「ハリウッド映画の表現を左右するアメリカの映倫MPAAの正体とは何か?!」の原稿!!(Ⅱ)

悪魔のいけにえ-2
映画秘宝MOOK「ショック! 残酷! 切株映画の逆襲」(2009年6月発行)に執筆した「ハリウッド映画の表現を左右するアメリカの映倫MPAAの正体とは何か?!」の原稿!!(Ⅰ)のつづきです!! → 


MPAAはロサンゼルスの拠点で1年間に約900本以上の映画を、およそ10~13名の審査員でレイティングを行っている。
チェックの主な対象は、暴力などの残酷描写、下品な言葉づかい、わいせつ表現、そして、タバコ・酒・ドラッグといった中毒性の摂取物に関してだ。
最後の酒についてMPAAは昨2008年に変わった見解を示した 。ヒーロー映画「ハンコック」で、落ちこぼれスーパーマンを演じたウィル・スミスが酒ビン片手のホロ酔いで超能力で空を飛ぶ場面に対して、飲酒運転が禁止である以上、飲酒飛行(?)も社会通念に反し、青少年に悪影響ではないか?!とクレームをつけたのだ。何だか真面目に相手するとバカらしいような話だが、同映画の監督ピーター・バーグは「悪影響を与えるも何も空を飛べる人間がいない」と反論した。
しかし、「ハンコック」は他の点でも指摘を受け、R指定からPG-13にレイティングを下げるのに3回以上の再審査を要して、撮り直しまで行い、製作費は超過してしまった。
また、MPAAはわいせつに関しては異常に敏感だ。クリスチャン・ベールが快楽殺人鬼のヤッピーを演じた「アメリカン・サイコ」(2000年)の監督メアリー・ハロンは同映画がNC-17の成人指定にレイティングされた時、てっきりパンツ一枚で血まみれのクリスチャン・ベールがチェーンソーを持って、女性を追い駆けまわすシーンが凶悪すぎたと思ったが、MPAAが眉をひそめたのはクリスチャン・ベールがふたりの女性を相手にする濡れ場の方で、3Pは道徳に反し不謹慎との指摘だった。チェーンソーで人間を斬り刻もうとするよりも、同時にふたりの女性とセックスする方が人として許されない訳だ。やっぱり、トビー・フーパー監督は「悪魔のいけにえ」で、もっと威勢よくチェーンソーを振り回してよかったかもしれない。


では、そんなセックスに強い関心を示し、飲酒飛行を戒める審査員はどのような人たちかというと、5歳から17歳までの子を持つ親で、映画産業に関係していなければ、特に心理学や映画の専門知識などは問われず、誰でもなることができる。任期は最長7年迄だが、子どもが18歳になりレイティングの保護の対象から外れると自動的に解任される。この採用基準は前述のレイティングの創始者であり、38年間も会長をつとめ、2007年に世を去ったヴァレンティが定めたものだ。
採用基準の根拠は親たちが子どもらに映画を観せる前に内容を判断できる指標と警告を与えることがレイティングの役割だとする基本方針に基づいている。
そこから世の常識に添って親の見方を代弁した判断を下すには、普通のお父さんお母さんを審査員にピックアップするのが最適と言う訳だが、識者からは疑問が投げかけられている。まず映画を観る眼力が怪しい素人からトンチンカンなダメ出しを食らう監督も気の毒だが、映画は最終的に大衆の支持を仰ぐものだから、それは仕方がないとも言える。問題なのは、専門性のない素人審査員はヴァレンティのような政界出の会長や、3名いる上級の常任審査員から容易にコントロールされてしまう危険性があることだ。
MPAAは審査員は職業特権が脅迫や買収の標的になり得るとして、彼らの素性を明かさず匿名としているが、となれば益々、公正な映画審査が行われているか?は疑いたくなって来ただろう。
ドキュメンタリー映画の監督カービー・ディックは映画界に大きな影響を与えているMPAAのレイティングが秘密のベールに包まれているのはおかしいとして、2006年に「This Film Is Not Yet Rated」=“この映画はまだレイティングされていません”というトボケた題名のドキュメンタリーを製作し、題名通り、レイティングを得ずに公開した。その映画の中で探偵を雇ったディック監督はMPAAの建物に出入りする車の主を調べ上げ、当時の審査員たちをスクリーンで公けに晒け出すというセンセーション(↓動画)を巻き起こしたが、驚くべきことに審査員らの多くは子どもが20代や30代で独立しており、中には離婚して子のない独身者までいた。
また、9年以上勤めている者もいて 、実態は採用基準がまるで守られていないことが暴露されてしまった…。

さらには覆面審査員のはずが、実際は彼ら審査員は監督や映画会社の人間とレイティングをめぐって面談するのも仕事のうちに含まれている。自己紹介はしないまでも、業界内で面は割れている訳だ。中堅映画スタジオのワインスタイン・カンパニーはその面談の機会を利用して、NC-17の成人指定を食らうことが予想された「グラ インドハウス」(2007年)の審査に、同映画の監督で有名人のクエンティン・タランティーノを送り込んだ。タランティーノはMPAAの審査員らを前に、「グラインドハウス」は見た目通りのエロや暴力がテーマではなく、失われた過去のアメリカの大衆映画文化の復刻であるとして、得意の映画のうんちくを交えたトークの独演会を行い、それを存分に楽しんだ審査員らは20秒だけカットしてくれという義理程度の体裁をつけ、「グラインドハウス」をR指定にした。
NC-17か、R指定かというのはたったワンランクの違いでも映画興行にとっては致命的な運命の分かれ道となる。アメリカの映画館主らの組合NATO(National Association of Theatre Owners)の調べでは、NC-17の映画の平均興行成績は400万ドル以下だが、R指定なら1億ドル以上稼ぐこともマンザラではない。
カービー・ディック監督が指摘したようにMPAAは底知れない影響力を映画界に与えている…。
http://www.traileraddict.com/emd/716
MPAAは2007年にも物議をかもす事件を起こした。モデルの美女が拉致監禁される偏執的なスリラー映画「キャプティビティ」(↑予告編)の宣伝にクレームをつけたのだ。「キャプティビティ」はロサンゼルスで30ヶ所に大型の屋外看板(↓写真)を設置し、ニューヨークでは1,400台のタクシーの屋根に広告を取り付けたが、それらはすべて撤去と作り直しを命じられた。
キャプティビティ-MPAA-修正前
主役のエリシャ・カスバートのアップになった顔のデザインで、彼女の口をふさごうとしてる黒皮手袋の手が怖いとか、広告を見かけた親たちから苦情が多く寄せられたためとMPAAは処分の理由を説明している。
キャプティビティ-MPAA-修正後
広告は必ずしもMPAAの事前承認が必要ではなく、こうしたトラブルはちょくちょく発生し、「ヒルズ・ハブ・アイズ2」(2007年)などもポスター(↓)を作り直しさせられている。この件で「キャプティビティ」は罰としてレイティングの審査が1ヵ月間保留され、公開延期の憂き目にあった。同映画を作った製作会社アフターダークのコートニー・ソロモンは、「MPAAは自分たちが風紀を守る番人であることを世にアピールするため、 中小やインディペンデントの映画とプロダクションを見せしめの餌食にしている…なぜなら、そうしておけば、大手映画スタジオの作品にはお目こぼしできるからだ」と、反省ではなく反論のMPAA批判をマスコミでぶち上げた。
こうした独立系の映画会社がMPAAに狙い撃ちされ、検閲に近い弾圧を受けるのは、冒頭に記したハリウッドの大手映画スタジオ6社=ビッグ6が核を成すMPAAが業界のパワーバランスを維持安定させるため、その舵取りをしているからだといった告発は相次いでいる。MPAAは中小映画スタジオが力をつけて、ビッグ6を脅かすことも許さなけ れば、6社のどこかが飛び抜けることも断じてさせない、映画業界の利権談合主義の砦の存在という訳だ。
↓ 「ヒルズ・ハブ・アイズ2」のポスター
ヒルズ・ハブ・アイズ2-ポスター
左がMPAAからクレームをつけられた本来のポスター。右が修正後のデザイン。
その砦から眺めれば、スピルバーグには甘く、ウェス・クレイブンには厳しかった訳や、インディーズの「悪魔のいけにえ」よりも過激な大手のリメイク版「テキサス・チェーンソー」が同じレイティングなのも納得できる。そして、そんなご都合主義をまかり通らせるのに審査員が素人なのはもってこいだ。果たして、「キャプテ ィビティ」の広告に苦情を申し出た親たちは本当に存在したのか?、さらに、会長室の本部を首都のワシントンD.C.に置くMPAAは政界とも密接につながっている。それは何を意味するかと言うと、ひとつには政府にとって都合の悪い映画をもみ消すことも可能という事だ。MPAAは、米軍基地内でアフガン人捕虜が拷問で死亡した事件を追ったドキュメンタリー映画「タクシー・トゥ・ザ・ダークサイド」(2008年)のポスターが“誤解を招く”と作り直しを命じたが、本当は何を隠したかったのか?、MPAAが目を光らせているのはホラーやポルノだけではない…。
世の親たちの代弁者を自任するMPAAが本当に保護したいのは子どもらの感受性ではなく、映画界を司る権力の安定と利権らしいことが結論として透かし見えてきた。そんなMPAAのダブルスタンダードについて、「悪魔の毒々」シリーズで知られるインディペンデントの映画会社トロマのロイド・カウフマン監督は「MPAAのレイ ティングを鵜呑みして、子どもに映画を観せるなんて自分は親として恐ろしくて、とてもできない…トンデモないものを子どもに観せてしまう…」と、良心的な“親の立場”を代弁している。トンデモないZ級映画を乱発する監督から、そう言われてはMPAAは身もフタも無いだろう。
以上のようなMPAAの理不尽から身を守るために、 映画の作り手らが情報交換するブログが過去に立ち上げられたことがある(現在は閉鎖)。そのブログの名前は「MPAAホラー・ストーリーズ」だったが、MPAAのレイティングの仕打ちで作品をオクラ入りにされた映画監督が次々と審査員を惨殺する同じ題名のホラー映画がいずれ作られないとも限らない。
きっと映画の中の殺人鬼は獲物の審査員とレイティングを相談しながら殺しの手口に工夫を凝らすことだろう。
悪魔のいけにえ-3
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