リバイバル上映の成果により全世界での興行収入のトータルがついに10億ドルを超えた映画史上4本めの作品となり、栄光のビリオンダラー・クラブ入りを果たした「バットマン/ダークナイト」(2008年)の歴史的大ヒットは、映画の内容だけでなく、映画の宣伝のやり方にも革命をもたらした結果だったことがよくわかるビデオです!! →
http://www.traileraddict.com/emd/9185
日本を除く世界の主要な75か国で約1,000万人以上の人々がネットやケータイを通じて参加した…というか巻き込まれ、振り回されて、のめり込んでしまった「バットマン/ダークナイト」の革命的なヴァイラル・マーケティング(口コミ宣伝)の仕掛け人を果たした宣伝マーケティング会社、42エンターテインメントの行った数々のキャンペーンを振り返り、 alternaterealitybranding.com がまとめたビデオです。
このブログではこれまでも折にふれ、「ダークナイト」はなぜ日本でヒットしなかったのか?!を語る時、こうした宣伝について言及し、その効果測定の分析を示さないまま、上っ面だけの日米の文化の違いであるとか、映画の内容がヒーローものにしてはシリアスすぎたとか?!、ひと昔ふた昔前の与太話めいた映画評論に議論を持っていくのは怠慢だと指摘してきました(そもそも宣伝を無視して興行を語れる訳がない)。
社会現象を半ば人工的に作り出した「ダークナイト」の宣伝とは何だったのか?!を、こうして顧みるビデオが作られ、それがまたネットで話題になり、口コミで広がって、「ダークナイト」の話題が今だに終わらない…というのは、まさに宣伝抜きに「ダークナイト」の歴史的大ヒットは語れないということを如実に現しているように思います。
こうした主にネットを触媒として広がるヴァイラル・マーケティングを最初に取り入れた映画はホラーの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999年)だったと思いますが、同映画は素人が作った自主製作映画で宣伝費などないという、やむにやまれぬ事情から始めた口コミ宣伝が成功し、製作費たった600万ドル(587万円)の映画が、全世界で2億4,863万ドル(243億円)も稼いでしまいました…。
その宣伝手法を現在のネットの中のヴァーチャル・ソサエティのコミュニティにどっぷり浸かっているようなヘビーユーザーに焦点を合わせ、オンラインのRPGゲームのような格好で復活させた「クローバーフィールド」(2008年)も、製作費2,500万ドルに対し、全世界で約1億7,000万ドル以上も売り上げる大ヒット作になりました。有名なスターが誰も出ていない“怪獣映画”の観客層を、メディアを知り尽くした天才プロデューサー、J・J・エイブラムスは自ら掘り起こしてみせた訳です
そうしたヴァイラル・マーケティングの下地を、ビデオでご覧のように「ダークナイト」は3次元のリアルの世界にまでリンクさせ、それまではネット上でしか映画の宣伝ゲームに参加していなかったプレイヤーたちに現実的なアクションを起こさせ、そのことでネットに関わっていない社会全体にまでインパクトを与えることに成功しています。
「ダークナイト」はこの世界各国で社会現象を作り出す仕掛けのために、映画ヴァイラル・マーケティングの元祖「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」とはかけ離れた莫大な宣伝費をつぎ込んでいますが、その成果が10億ドル超えならば、こうした宣伝に力をかけた甲斐は充分にあったと言えるでしょう。
当然、こうした大ヒットの成功例を見て、他の多数の映画もヴァイラル・マーケテイングに挑んできましたが、ことごとく失敗し、途中退散して、通常の宣伝手法に切り替えてしまっています。
市場に単に情報を投下するのではなく、対象を参加させてしまわなければならないことが絶対条件の口コミの仕掛けで大事なのは、やはり、その仕込みにかけるお金ではなく、思いがけないスポットを突いて関心を惹きつけるアイディアと、一度とらえた興味をその後も離さず捕らえ続ける展開のセンスであって、継続は容易ではありません。
しかし、ヴァイラル・マーケティングが成功すれば大ヒットで儲かる映画会社だけでなく、実際に映画を観ている上映時間より遥かに長い間、日常からずっと映画に関われて、その世界にどっぷりと浸れる観客も幸せです。
これからまた、どんなヴァイラル・マーケティングのアイディアでビックリさせてくれる映画が飛び出すのか?!、楽しみですが、その多くは英語でのみ展開されて、日本語に訳されないのは残念です。
だから冒頭で“日本を除く…”と書いてみたのですが、もし、日本でも「ダークナイト」のヴァイラル・マーケティングが行われていたらどうだったでしょう…?!、結果は神のみぞ予測し得るですが、映画の見え方は違っていたと思います…。
【注意】本文の二重使用・無断転載厳禁。引用は当ブログ名を明記し、リンクをお願いします。特に某映画サイトのライターは文章を丸々コピーしないこと!!