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おとつい、ココで初公開のポスターと写真を紹介した時にお約束した、クリント・イーストウッド俳優引退作品「グラン・トリノ」の予告編です。前回の記事では、クリント・イーストウッド自身がUSAトゥデイのインタビューで語った言葉などから、本作の内容を紹介しましたが、そのあらすじでは何だか、老人と少年とのふれあいを描いた、ハートウォーミングな感動映画のような印象がありました。が、この初公開された予告編はそんな甘い予想をスッパリと気持ちよく裏切り、イーストウッド・ファンが待っていたハードボイルド・クライム・アクションのような雰囲気をたたえています。ミスマッチのように思えたサスペンス映画っぽいポスターのデザインも、実はこうした映画本編の緊迫感を表現していたんですね。この自らメガホンをとった、「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)以来の4年ぶりとなる主演作で、イーストウッドは白人優位の人種差別主義者の老人、ウォルト・コワルスキーを演じています。 →
予告編の冒頭で、イーストウッドは黒人のストリート・ギャングの青年らにからまれているアジア系の少女を助けていますが、それも黒人が嫌いだといった差別の動機が心底にありそうです。それに加えて、自宅の隣りに中国人の移民が引越してきたことを知ったイーストウッドは、「なんで、隣りにクソ中国人が引越してくるんだよッ?!」みたいな悪態をつき、庭の芝生にツバを吐いてみせ、この人物の偏見を表現しています。そして夜間、自宅の庭で騒ぎが起こり、暴れているアジア人の少年らに向けて、イーストウッドは朝鮮戦争に従軍した記念であるM-1ライフルを突きつけ、「俺の庭の芝生から出て行け!!」と凄んでみせます。いくら何でも銃を持ち出すのは過激すぎることから、さらにコワルスキーがガイジン嫌いであることや、もしかすると危険な目に遭う無謀さを省みない様子から、彼が自分を取り巻く周囲へ怒りの感情を持っていることが、前後の場面のつながりからも察することができます。けれど、そのようなガイジン嫌いから、中国人なんて殺してもいいぐらいの気持ちで銃を持ち出したイーストウッドに向かって、冒頭でもイーストウッドに助けてもらった少女が、彼の真意を理解しないまま、「弟を助けてくれて、ありがとう」と素直に感謝の気持ちを伝えます。この展開から、彼女が隣人の中国少数民族のミャオ族の一家の娘スーだったことがわかります。こうして一度ならず、二度までも、イーストウッドに助けてもらったスーは、彼に好感を抱き、臆せず接近していったことから、イーストウッドのコワルスキーと隣人のミャオ族のロー一家との間に交流が生まれ、イーストウッドは自分が奇しくも助けた少年タオがストリート・ギャングの不良グループらとの間に問題を抱えていることを知ります。そして、イーストウッドは年甲斐なく、「ダーティ・ハリー」ばりに近所の悪ガキの大掃除を始めてしまいそうな雰囲気なのですが…。といった感じですね。この予告編が明らかに持っている映像の力や、イーストウッドの演技の素晴らしさ、また、登場人物の思いが微妙にすれ違っているようなドラマ仕立ての巧みさなどから、本作は「ミリオンダラー・ベイビー」に匹敵するような傑出したドラマ映画ではないか?という予感がします。マカロニ・ウエスタンで名を成したイーストウッドの引退作品が、老人と少年のふれあいの感動作と言うのは、ちょっとなぁ…と往年のイメージを大切にしているファンも、この銃を構えて闘志むき出しのイーストウッドによる、彼らしい血気盛な老人と少年らとの荒っぽいふれあいならば納得できるのではないでしょうか?!、ところで、イーストウッド演じる偏屈じいさんの心を解きほぐすことになる中国人少女スーは、ちょっとかわいいじゃないか…と思った人も多そうな気がするので、彼女について紹介しておきます。本作の主演女優として、大スターのイーストウッドを相手にスーを演じてる彼女は、ミシガン州ランシング出身の16歳のアーニー・ハー(Ahney Her)です。英語のニックネームはホイットニー。以前はヒップ・ホップ・ダンサーになりたかったそうですが、幼い時の自分のビデオを見直した時に、自分はふだんの日常生活でも、周囲に向けて演技ばかりしていることに気づき、これはダンサーよりかは女優になった方がよさそうだと思い直し、地元のタレント・スクールで3年間、演技のトレーニングを重ねました。この「グラン・トリノ」のオーディションは、出かけたサッカーの試合場でたまたま耳にし、ロクに準備もせずに臨みましたが、楽しみながら演技しているナチュラルさをイーストウッドに見初められ、見事に大役を得て、本作で初めてカメラの前に立ちデビューした新人です。そんな彼女の偉大な映画人イーストウッドの印象は、これまでに出会った人の中で最も謙虚な人とのことで、そばにいると安心感があり、そのせいで自信を持って演技できたと、エスニック系メディアで語っていました。映画史に無数の足跡を残してきた名優クリント・イーストウッドが銀幕から去る映画で、入れ替わりにデビューできた彼女はすごくラッキーですね。そんなアジア系美少女も見どころなクリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」はアメリカで12月17日公開です。
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