映画にもなった有名なミュージカル「シカゴ」で知られるジョン・N・ハート・Jrと、ジェフリー・シャイン、フレデリック・ゾロという3人のブロードウェイのプロデューサー・トリオが、今年の第80回アカデミー賞で、オリジナル歌曲賞を受賞した名作「ONCE ダブリンの街角で」(2006年)の舞台化権を獲得しました。「ONCE ダブリンの街角で」は、中年に差しかかっても人生が上手くいかず、ストリートミュージシャンを続けている男と、チェコから移民してきた女性が、タイトル通りにダブリンの街角で出逢い、音楽を通じて心のふれあいを持ち、お互いが慰められ勇気を得るという、美しいインディーズ映画です。もっと言うなら、これを観ないとあなたの人生は損ですよと脅迫したい名作です。と、ここで上 ↑ の動画を再生してほしいのですが、主演のグレン・ハンサードとマルケタ・イルグロヴァが歌う、アカデミー賞オリジナル歌曲賞を受賞した主題歌「Falling Slowly」です。3人のプロデューサーは当然、「ONCE ダブリンの街角で」をブロードウェイ・ミュージカル化を目指すのでしょうが、果して、この「Falling Slowly」を主演のふたりの他に誰が歌えるのでしょう?、映画の感動の多くはふたりの歌の美しさによるものでした。グレン・ハンサードとマルケタ・イルグロヴァの生歌が聴けるなら、映画の観客はみんなミュージカルを観に出かけると思います。でも、そうじゃなかったら…。アカデミー賞授賞式で、ジョン・トラボルタが「受賞者はグレン・ハンサードとマルケタ・イルグロヴァ!!、曲は『Falling Slowly』です!!」と言った瞬間に、世界中で多くの人がグッと胸を詰まらせ、目頭を熱くしました。映画の中で、プロのミュージシャンになることを夢見て奮闘していた主人公の想いが、あたかも現実に叶ったかのような錯覚に陥ってしまったからです。そして実際、グレン・ハンサードとマルケタ・イルグロヴァという無名のふたりにとっては、夢が叶った人生のハイライトです。盛り上がらなかった今年の授賞式で、唯一のそして最高に感動的なシーンと言われた場面でしたが、グレン・ハンサードがスピーチを終え、いよいよマルケタ・イルグロヴァが話そうとした矢先、CM突入のジングルが鳴り響き、彼女は受賞者なのにスピーチをさせてもらえませんでした…。感動的な受賞場面の結末は失態の興ざめだった訳ですが、ミュージカル版「ONCE ダブリンの街角で」もそういう風にならないことを祈ります…。

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